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東京地方裁判所 平成6年(ワ)4911号 判決

原告 株式会社横浜コンビニエンス

右代表者代表取締役 太田渡

右訴訟代理人弁護士 武井共夫

被告 有限会社A田

右代表者代表取締役 A野太郎

〈他2名〉

右三名訴訟代理人弁護士 一木明

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金五九八万六五四〇円及びこれに対する平成五年六月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、それぞれを各自の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自金一五七二万三二一四円及びこれに対する平成五年六月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  当事者

(一) 原告は、コンビニエンスストアーの経営等を業とする株式会社である。

(二) 被告有限会社A田(以下「被告会社」という。)は、酒類の販売等を業とする有限会社であり、被告A野春夫(以下「被告春夫」という。)は、被告会社の取締役でその実質的経営者、被告A野太郎(以下「被告太郎」という。)は、被告会社の代表取締役である。

2  事実経過

(一) 被告会社は、クィニーと呼ばれる宅配による酒類及び医薬品のフランチャイズ販売システム(以下「クィニーシステム」という。)を主宰していた。

(二) 原告は、平成四年一〇月一三日、日経流通新聞に掲載されたクィニーシステムのフランチャイズ募集の広告を見て、被告会社に対し、資料を請求し、被告会社は、その数日後、原告に対し、資料を送付した。

(三) 原告は、平成四年一二月一一日、保土ヶ谷税務署に、右資料を持参の上、クィニーシステムに酒税法上の問題がないかどうかを確認したところ、平成五年一月一三日、クィニーシステムのマニュアルどおりに営業すれば、酒税法上の問題はないとの回答を得た。

(四) 原告代表者の太田渡(以下「太田」という。)は、平成五年一月九日及び同年二月二二日、被告会社の社長と称する被告春夫から、クィニーシステムについての説明を受けた。同年二月二二日の説明の際、被告春夫は、太田に対し、原告が顧客を訪問して酒類の注文を取るいわゆる御用聞きを奨励した。

(五) 原告は、同年三月一一日、被告会社との間で、次のとおり、商品販売業務委託契約(以下「本件契約」という。)を締結し、クィニーシステムの加盟料として、被告会社に対し、金二五〇万円を支払った。この際、被告春夫は、太田に対し、御用聞きを奨励した。

(1) 原告が自ら契約主体となり、自らの費用で、倉庫の敷地を確保し、その上に倉庫を建築する。

(2) 被告会社は、右倉庫の所在地を管轄する税務署に、右倉庫を蔵置所として届け出る。

(3) 原告は、自らの努力と費用で、求人広告を出し、採用面接をするなどして人員を採用する。

(4) 原告は、自らの費用で、備品、車両、事務消耗品等を購入する。

(5) 原告は、自らの費用で、広告チラシを作成し、配布する。

(6) 原告は、自らの判断で在庫管理を行い、自らの費用で、商品及び消耗品を発注し、代金を送金する。

(7) 原告は、顧客を訪問し、注文を依頼する。

(8) 顧客は、被告会社に対し、フリーダイアルにて商品を注文する。

(9) 原告は、顧客に商品を配達し、顧客から商品の代金を受領する。

(10) 営業所に関して要する諸経費は、すべて原告が負担し、原告は、商品の代金の中から一定の率の利益を取得する。

(六) 太田は、同年四月一日から同月三日まで、被告会社によるクィニーシステムの研修を受けた。太田は、この研修において、被告会社の指示により、御用聞きを実際に行った。

(七) 原告は、本件契約締結の前後から、倉庫を建設する等クィニーシステムの営業店としての営業に必要な設備を用意し、歩合宅配員五名を雇用し、オープンチラシを作成し、商品及び消耗品を被告会社に注文する等の開業の準備をして、同年四月二一日から、クィニーシステムの営業店として業務を開始した。

(八) 原告は、同月二四日、被告会社から、クィニーシステムに関して税務署の立入りがあったこと等を内容とする業務連絡のファクシミリが送付された。そこで、原告が、文献を調査したり、税務署等に問い合わせるなどして調査したところ、クィニーシステムの営業は、酒税法九条及び薬事法二四条に違反する行為であることが判明した。そのため、原告は、同月二八日、クィニーシステムの営業を停止し、その旨を被告会社に通告した。

(九) 関東信越国税局長は、被告会社に対し、平成五年五月一九日、酒税法九条一項違反(無免許販売)の犯則嫌疑に基づき、査察及び捜索差押えを実施し、同年一〇月一四日、宇都宮地方検察庁検察官に対し、被告会社を酒税法違反の嫌疑で告発した。同庁検察官は、平成六年八月二四日、被告会社及び被告春夫を酒税法違反の公訴事実で宇都宮地方裁判所に起訴し、同裁判所は、平成一〇年一〇月一五日、被告会社らのクィニーシステムによる酒税法違反被告事件につき、被告会社に対し、罰金二〇〇万円、被告春夫に対し、懲役八月、執行猶予三年の有罪判決を下した。

3  被告らの責任

(一)(1) 本件契約にかかるクィニーシステムの営業活動は、実質的に見て、原告が設置した倉庫を営業所として酒類の販売の代理業とするものであり、酒類の販売の代理業に対し免許を要するとする酒税法九条に違反するものである。

(2) まして、被告春夫は、平成五年二月二二日、原告に対しクィニーシステムの営業内容について説明した際及び同年三月一日の本件契約締結時において、御用聞きを太田に対し奨励し、同年四月一日から三日までの研修においても、御用聞きを奨励し、太田をしてご用聞きを実践させた。かかるご用聞きは、酒税法九条に明らかに違反する。

(3) 本件契約上、原告は、薬品を右倉庫において貯蔵していなければならないところ、かかる貯蔵は、薬局開設者又は医薬品の販売業の許可を受けた者でなければ、業として、医薬品を販売又は授与の目的で貯蔵してはならないとする薬事法二四条に違反する行為である。

(4) 被告らは、いずれも、クィニーシステムが、前記(1)ないし(3)のとおり、酒税法九条及び薬事法二四条に違反すると知っていた又は容易に知り得べきであったにもかかわらず、共謀の上、原告をしてクィニーシステムの営業をさせた上、その営業をやむなく停止させるに至ったのであるから、原告がクィニーシステムの営業をするに当たって支出した金員を、共同不法行為又は被告春夫及び被告太郎については有限会社法三四条の三、商法二六六条の三第一項、被告会社については有限会社法三二条、商法七八条二項、民法四四条一項に基づき、損害賠償する責任があるというべきである。

(二)(1) また、被告春夫は、原告に対し、クィニーシステムへの加入を勧誘する以上、少なくとも、クィニーシステムが、法規に違反している疑いがあることを原告に対し、十分説明する注意義務が存在していたというべきであり、この点につき、何らの説明もしなかった被告春夫は、原告に対し、不法行為又は有限会社法三四条の三、商法二六六条の三第一項に基づく損害賠償責任を負うべきである。

(2) そして、被告会社の取締役である被告春夫が右説明をしなかったことにつき、被告会社の代表取締役として何らの監視、監督をしなかった被告太郎は、有限会社法三四条の三、商法二六六条の三第一項に基づき、また、被告会社は有限会社法三二条、商法七八条二項、民法四四条一項により、原告に対し、損害賠償責任を負うべきである。

4  原告の損害

(一) 被告会社への支払 合計金七一九万三三一五円

原告は、本件契約に関して、被告会社に対し、次の金員を支払った。これらは、いずれも、被告らの違法行為に伴う損害である。

(1) クィニーシステム加盟料 金二五〇万円

(2) クィニーシステムコンピューター一式代金 金一九五万七〇〇〇円

(3) 商品仕入代金 金二六三万一三六五円

(4) 消耗品仕入代金 金一〇万四九五〇円

(二) アサヒコーポレーション株式会社(以下「アサヒコーポレーション」という。)への支払 金二〇万九九八二円

原告は、クィニーシステムを経営するに際して、アサヒコーポレーションに対し、商品仕入代金として、二〇万九九八二円を支払った。

(三) 倉庫設置のための費用 合計金三三四万四一九二円

原告は、クィニーシステムを経営するために必要な倉庫の設置及び倉庫用地の地代及び振込み手数料として、合計金三三四万四一九二円を支払った。

(四) 軽車両及びフォークリフト購入代金 合計金一〇二万四七七七円

原告は、クィニーシステム経営に必要な軽車両を購入するために、九二万四八八〇円を支払うとともに、フォークリフト購入代金として、四四万九八九七円を支払った。そして、右フォークリフトをクィニーシステムの営業を停止した後、金三五万円で売却したので、軽車両及びフォークリフト購入に関する損害は、金一〇二万四七七七円となる。

(五) その他の支出 合計金一八七万一六八〇円

原告は、クィニーシステムに加入したことにより、次のような出費をして、損害を被った。

(1) 人件費 金一三五万〇四七八円

(2) 接待交際費 金三万八三三七円

(3) 広告宣伝費 金一六万〇六八〇円

(4) 燃料費 金三二一四円

(5) 通信費 金一万七三五三円

(6) 消耗品費 金三〇万一六一八円

(六) 弁護士費用 金二〇七万九二六八円

原告は、本訴提起に当たり、弁護士を訴訟代理人として選任し、その報酬として、金二〇七万九二六八円を支払うことを約束した。この報酬全額も、被告らの不法行為に基づく損害であるというべきである。

5  よって、原告は、被告らに対し、共同不法行為に基づく損害賠償請求権又は被告春夫に対しては不法行為若しくは有限会社法三四条の三、商法二六六条の三第一項に基づく損害賠償請求権に基づき、被告太郎に対しては有限会社法三四条の三、商法二六六条の三第一項に基づく損害賠償請求権に基づき、被告会社に対しては有限会社法三二条、商法七八条二項、民法四四条一項に基づく損害賠償請求権に基づき、連帯して、損害金合計一五七二万三二一四円及びこれに対する本訴状送達の翌日である平成五年六月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する被告らの認否及び反論

1  請求の原因1(一)及び(二)の各事実は認める。

2(一)  同2(一)は認める。

(二) 同2(二)は認める。

(三) 同2(三)は不知。

(四) 同2(四)の事実のうち、被告春夫が、原告に対し、平成五年一月九日及び同年二月二二日、クィニーシステムについて説明したことは認め、その際、被告春夫が被告会社の社長を名乗った点及び同年二月二二日の説明の際、被告春夫が、太田に対し、御用聞きを奨励した点は否認する。

(五) 同2(五)本文の事実のうち、原告と被告会社とが本件契約を締結し、原告が被告に対して加盟料二五〇万円を支払ったことは認め、被告春夫が太田に対し御用聞きを奨励した点は否認する。

(1) 同2(五)(1)の事実は否認する。

本件契約は、倉庫として利用できる空間があることが条件とされているのみであり、倉庫を建築すること自体は本件契約の条件ではない。

(2) 同2(五)(2)の事実は認める。

(3) 同2(五)(3)の事実は否認する。

本件契約においては、原告本人が商品を配送し、売上が増加した後に配送員を雇用する場合には、被告会社から出張して面接し、雇用条件を説明することを原則としていた。

(4) 同2(五)(4)の事実は認める。

(5) 同2(五)(5)の事実は否認する。

本件契約において、広告チラシは、すべて被告会社で企画作成するものであり、配布については、原告の費用で行うこととされていた。そして、原告が支払うロイヤリティの一年分について毎月一〇万円減額することにより、広告宣伝費を賄えることとしていたので、原告の負担する広告宣伝費は存在しなかった。

(6) 同2(五)(6)の事実は否認する。

本件契約の下では、商品は、被告会社が仕入先に発注し、顧客からの注文を受けて、被告会社から商品の預託を受けた原告がこれを配達することとされていた。被告会社が原告の蔵置所に商品を預託する場合、商品の仕入原価に相当する金額の保証金を受けることがあるが、これは商品代金の支払ではない。

(7) 同2(五)(7)の事実は否認する。

(8) 同2(五)(8)の事実は認める。

(9) 同2(五)(9)の事実は認める。

(10) 同2(五)(10)の事実は、営業所を蔵置所とし、原告において一定の率の歩合給に相当するものを得ていたとする限度で認める。

(六) 同2(六)の事実は認める。ただし、この研修において、太田に御用聞きを実際に行わせたのは、顧客の生の声を知ってもらうとともに、商品に関する知識を修得してもらうためであり、クィニーシステムにおいて、原告に御用聞きが認められていたからではない。

(七) 同2(七)の事実のうち、原告が平成五年四月二一日から、クィニーシステムの営業を開始したことは認め、その余の点は不知。

(八) 同2(八)の事実のうち、原告が税務署に問い合わせるなどして調査したところ、クィニーシステムの営業が酒税法九条及び薬事法二四条に違反する行為であることが判明したとの点は否認し、その余の事実は認める。

原告が本件契約を解約してクィニーシステムの営業を停止したのは、被告会社が原告の希望する担当地域を割り当てなかったこと及び平成五年四月二三日に、原告の担当地域から被告会社にフリーダイアルが繋がらないというトラブルが発生した際、被告春夫が、日本電信電話株式会社(以下「NTT」という。)に対して損害賠償を請求した原告をたしなめるなどして、原告の期待どおりに行動しなかったことを理由とするものである。

(九) 同2(九)は認める。ただし、被告会社及び被告春夫に対する有罪判決は事実認定及び法律適用に誤りを含むものであり、同人らは東京高等裁判所に対し、控訴をしている。

3(一)(1) 同3(一)(1)の主張は争う。

クィニーシステムは、顧客が、フリーダイアルによる電話注文により被告会社に対し直接に売買の申込みをし、被告会社が、右申込みに対し承詰をすることにより、酒類の売買契約を成立させるものであるから、酒類の売り主は、あくまで被告会社である。また、代理業というためには、販売業者を代理して販売業を営み、販売契約の締結自体に関与する必要があるが、原告は、被告会社に代わって、酒類の配達をするにすぎないから、代理業にも当たらず、クィニーシステムの営業活動は、酒税法九条に違反しない。

(2) 同3(一)(2)の事実は否認する。

被告らは、クィニーシステムを始めた昭和六三年四月以降、たびたび税務当局の調査を受け、その際、原告のような蔵置所が酒類の注文を受けてはならない旨指導を受けてきた。被告らは、かかる指導を守っており、御用聞きを奨励するようなことはしない。

(3) 同3(一)(3)の主張は争う。

クィニーシステムの下では、酒類同様、薬品についても、顧客からの申込みを受け、それを承諾するのは、被告会社であり、原告は、その薬品を、被告会社に代わって、顧客に配達するにすぎない。

そして、薬品を電話で注文を受けて配達することについても、顧客が販売者の住所氏名を了知して必要に応じてその責任を追及し得る場合には許されているので、クィニーシステムに、薬事法上の問題は生じない。

(二) 同3(一)(4)並びに(二)(1)及び(2)の主張はいずれも争う。

(1) 前記3(一)(1)及び(3)のとおり、クィニーシステムは、酒税法及び薬事法に違反するものではない。

(2) 被告らは、被告会社の前身である有限会社A野松太郎商店がクィニーシステムを始めた昭和六一年四月三日ころ、関東信越国税局間税部酒税課の調査を受け、それ以降、一〇年以上税務当局の指導を受けつつ、クィニーシステムを展開してきたものであるから、仮に、クィニーシステムが違法であるとしても、被告らには、クィニーシステムが違法であること又はその疑いがあることについては、認識することができなかった。

したがって、被告らには過失すら存在しない。

(3) 仮に、被告春夫が、太田に対し、クィニーシステムの説明又は研修に際し、ご用聞きを奨励したとしても、そのことにより、原告は、クィニーシステムの適法性につき重大な疑義が生じたはずであり、その点を自らの責任で調査、検討しなかった原告に対し、被告春夫が説明義務を負うものではない。

4(一)  同4(一)の事実のうち、被告会社が原告からクィニーシステム加盟料として金二五〇万円の交付を受けたことは認め、被告会社から原告へのその余の支払が被告らの賠償すべき損害に該当するとの主張は争う。

加盟料以外の支払は、売買契約に基づく代金の支払であり、かつ、原告は、すべて等価性のある物品を受領している。したがって、これらの支払により原告に損害は発生しない。

(二) 同4(二)ないし(六)の事実のうち、原告がこれらの各支出ないしその約定をしたことは不知。これらの各支出が被告らの賠償すべき損害に該当するとの主張は争う。

前記(一)と同様、原告の右各支出は、売買等の契約に基づく支出であり、かつ、原告は、その対価としての物品、労務等を受領しているから、これらの支払により原告に損害は発生しない。

6  同5の主張は争う。

三  被告らの抗弁―過失相殺

原告は、被告会社と本件契約を締結してクィニーシステムに加盟する前に、被告会社から送られた資料を検討し、独自に税務署と相談した上、原告自らの判断により、被告会社との間で本件契約を締結したのであるから、自らの意思で、違法ないしその疑いのあるクィニーシステムに参加したことになる。したがって、被告らの賠償額は、過失相殺により、減額されるべきである。

四  被告らの抗弁に対する原告の認否及び反論

争う。

1  被告春夫は、原告に対して、違法なクィニーシステムを、違法な経営方法であると認識して故意に勧誘したものであり、被告春夫に対する損害賠償請求権を、過失相殺により減額すべきではない。また、被告春夫が被告会社の実質的経営者であること、被告太郎が被告会社の代表取締役であることからすると、被告会社及び被告太郎に対する損害賠償請求権も、過失相殺による減額を認めるべきではない。

2  本件のようなフランチャイズ契約においては、フランチャイズの主宰者と加盟者との間には、力関係、専門知識、経験のいずれにおいても、主宰者側が圧倒的に優位な立場に立って、契約を締結できる。したがって、加害者と被害者の立場の互換性又は対等独立性を前提とする過失相殺を、本件において適用することは許されない。

理由

一  原告がコンビニエンスストアーの経営等を業とする株式会社であること(請求の原因1(一))、被告会社が酒類の販売等を業とする有限会社であり、被告春夫がその取締役で実質的経営者であること、被告太郎が被告会社の代表取締役であること(同1(二))は、いずれも当事者間に争いがない。

二  事実経過(請求の原因2)について検討する。

1  被告会社が宅配による酒類及び医薬品のフランチャイズ販売システムであるクィニーシステムを主宰していたこと(請求の原因2(一))、原告が平成四年一〇月一三日付けの日経流通新聞に掲載されたクィニーシステムのフランチャイズ募集の広告を見て被告会社に対し資料を請求し、被告会社からその送付を受けたこと(同2(二))、請求の原因2(四)のうち、太田が、平成五年一月九日及び同年二月二二日、被告春夫から、クィニーシステムの説明を受けたこと、請求の原因2(五)の事実のうち、原告が被告会社との間で、平成五年三月一一日、本件契約を締結したこと、原告が、同日、クィニーシステムの加盟料として、金二五〇万円を被告会社に支払ったこと、本件契約の内容中、被告会社が、原告所有の倉庫所在地を管轄する税務署に、右倉庫を蔵置所として届け出ること(同(2))、原告が、自らの費用で、備品、車両、事務消耗品等を購入すること(同(4))、顧客は被告会社に対してフリーダイアルで商品を注文することが原則とされていること(同(8))、原告は、顧客に商品を配達し、顧客から商品の代金を受領すること(同(9))、太田が、平成五年四月一日から同月三日まで、被告会社によるクィニーシステムの研修を受けたこと及びこの研修において、太田が、被告会社の指示により、実際に御用聞きを行ったこと(請求の原因2(六))、請求の原因2(七)の事実のうち、原告が、平成五年四月二一日からクィニーシステムの営業を開始したこと、請求の原因2(八)の事実中、平成五年四月二四日、原告に被告会社から、クィニーシステムに関して税務署の立ち入りがあったこと等を内容とする業務連絡のファクシミリが送付されたこと、原告が、同年四月二八日、クィニーシステムの営業を停止し、その旨を被告会社に通告したこと、関東信越国税局長が、被告会社に対し、平成五年五月一九日、酒税法の無免許営業の犯則嫌疑に基づき、査察及び捜索差押えを実施し、同年一〇月一四日、宇都宮地方検察庁検察官に対し、被告会社を酒税法違反の嫌疑で告発したこと、同庁検察官は、平成六年八月二四日、酒税法違反の公訴事実により、被告会社及び被告春夫を宇都宮地方裁判所に起訴したこと、同裁判所は、平成一〇年一〇月一五日、被告会社及び被告春夫に対するクィニーシステムにかかる酒税法違反被告事件につき、被告会社及び被告春夫に対し有罪判決を言い渡したこと(請求の原因2(九))の各事実は、当事者間に争いがない。

2  右当事者間に争いのない事実及び《証拠省略》によれば、本件における事実経過について、次のとおり認められる。

(一)  被告春夫は、昭和六〇年ころ、酒類、医薬品などの宅配フランチャイズ販売システムであるクィニーシステムを考案し、被告会社は、昭和六三年の設立当初から、被告春夫を実質的経営者として、クィニーシステムを主宰していた。

(二)  太田は、平成四年一〇月一三日、日経流通新聞に掲載されたクィニーシステムのフランチャイズの募集広告を見て、被告会社に対し資料を請求し、その数日後、被告会社は、原告に対し、資料(以下「マニュアル」という。)を送付した。

(三)  太田は、クィニーシステムによる営業が酒税法に違反しないか疑問を持ち、平成四年一二月一一日、保土ヶ谷税務署に、被告会社から送付されたマニュアルを持参して、クィニーシステムに酒税法違反の点がないかどうかを質問し、同税務署は、太田に対し、平成五年一月一三日、神奈川税務署に相談した結果として、右資料どおりの運営をしていれば酒税法違反の点はない旨回答した。

(四)  太田は、平成五年一月九日及び同年二月二二日、被告会社を訪問し、有限会社クィニー代表取締役社長の名刺を所持し被告会社の社長と称していた被告春夫から、クィニーシステムの説明を受けた。

(五)  平成五年二月二二日の説明の際、被告春夫は、太田に対し、本件契約の契約書(以下「本件契約書」という。)中に原告が被告会社に支払うべき歩合について定めている第七条3(3)の「営業所独自で注文した商品は売上の〇・八%」について、原告において御用聞きで注文した商品のことであり、御用聞きの場合、原告が被告会社に支払うべき歩合額が、クィニーシステムの通常の場合よりも少ないことを説明した。

(六)  原告は、被告との間で、平成五年三月一一日、次のとおり、本件契約を締結し、クィニーシステムの加盟料として、被告会社に対し、金二五〇万円を支払った。

(1) 原告は、約一二坪程度の雨露を防ぐことのできる倉庫を自己の費用で用意し、被告会社が右倉庫を蔵置所として所轄の税務署に届け出る。原告は、右蔵置所において、同被告の歩合社員として商品の販売業務を行う。

(2) 原告は、被告会社が指定する地域内に設置する蔵置所において、同地域内の顧客から被告会社にフリーダイアルにより注文された商品を、被告会社の指示に従い、原告が自己の費用で雇用する従業員が、顧客に配達する。

(3) 原告は、被告会社に対し、加盟料として、金二五〇万円を支払う。この加盟料は、原告がクィニーシステムを開業するまでの被告会社の経費に充当され、返還されることはない。

(4) 原告は、被告会社から、クィニーコンピューターシステムを金一九〇万円で買い受ける。

(5)① 原告は、自らの判断で在庫を管理し、被告会社は、原告から商品出荷の依頼があり、その商品に被告会社の仕入価格に相当する保証金の振込みがあったときは、原告に対し、商品を出荷する。

② 原告は、右仕入原価に原告の配達料を加えた被告会社の指定する価格により、商品を販売し、販売代金を受領する。

(6) 原告は、被告に対し、配達保証料及び事務費として、一箇月につき合計金二三万円を支払うほか、以下の金員を支払う。これに対し、被告会社が、原告に対して、金員を支払うことは予定されていない。

① 共通取扱い商品、即ち、広告に掲載された商品は、その売上げの一・三パーセントの金員を支払う。

② それ以外の商品、即ち、広告に掲載されていない商品は、その売上げの二・三パーセントの金員を支払う。

③ 営業所独自で注文した商品は、その売上げの〇・八パーセントの金員を支払う。

(7) 原告は、クィニーシステムの業務に関して生ずる、フリーダイアル使用料、コンピューターの保守料金、蔵置所として使用されている倉庫の賃料、広告宣伝費等一切の費用を負担する。

(8) 原告は、自らの費用で、備品、車両、事務消耗品等を購入する。

(9) 原告の従業員が顧客に商品を配達した際、「何かお持ちするものはありませんか。」と顧客に対し注文を依頼することが予定されている。

(七)  被告春夫は、原告と被告会社との間の本件契約締結に際し、太田に対し、御用聞きは普通の酒屋でも許されていると説明して、御用聞きに酒税法上問題はないことを強調した上、御用聞きを奨励した。

(八)  太田は、平成五年四月一日から同月三日まで、被告会社において、クィニーシステムの販売の研修を受けた。太田は、この研修において、被告会社の指示により、御用聞きを実際に行った。

(九)  原告は、平成五年三月四日、朝日販売開発株式会社に対し、クィニーシステムによる営業を行うための求人広告掲載を依頼し、同月中旬ころ、クィニーシステムによる営業を行うための従業員を採用し、同月二九日から同年四月四日までの間に倉庫を設置し、同月一二日及び一五日に事務用品及び台車を購入し、同月一三日に軽車両、同月一七日にフォークリフトの納車を受け、同日、第一回目の商品及び消耗品の発注を被告会社に行い、同月一九日、被告会社の指示で、輸入洋酒をアサヒコーポレーションに発注するとともに送金し、同月二〇日、株式会社読売インフォメーションサービスに対し、クィニーシステムの新聞折り込み広告を同月二三日に配布するよう依頼するなどして、クィニーシステム営業の準備を行い、同月二一日、クィニーシステムによる営業活動を開始した。

(一〇)  原告は、被告会社から、平成五年四月二四日、「税務署の立入りがありましたのでご連絡致します」等を内容とする業務連絡のファクシミリ送付を受けた。

(一一)  原告は、右業務連絡により、クィニーシステムによる営業が酒税法及び薬事法に違反するのではないかと疑念を持ち、中税務署に相談したり、以前購入した国税庁酒税課長監修にかかる文献を読んで検討し、国税庁酒税課に電話で質問する一方、栃木県庁に電話で薬事法上の問題点についても質問した結果、クィニーシステムによる営業が、酒税法及び薬事法に違反するとの認識を持つに至った。

(一二)  そこで、原告は、平成五年四月二八日、クィニーシステムによる営業を停止し、被告会社に対し、電話でその旨通告した。その後、太田と被告春夫との間で、商品及び保証金の返還について協議したが、両者とも相手方が先に返還すべきであると主張したため、交渉がまとまらず、被告会社は原告の商品を引き取らなかった。

(一三)  関東信越国税局長は、被告会社に対し、平成五年五月一九日、酒税法九条一項違反の犯則嫌疑に基づき、査察及び捜索差押えを実施し、同年一〇月一四日、宇都宮地方検察庁検察官に対し、被告会社を酒税法違反で告発し、同庁検察官は、平成六年八月二四日、被告会社及び被告春夫並びに営業所を経営していた者を宇都宮地方裁判所に起訴し、同裁判所は、平成一〇年一〇月一五日、被告会社らのクィニーシステムによる酒税法違反被告事件につき、被告会社に対し、罰金二〇〇万円、被告春夫に対し、懲役八月、執行猶予三年の有罪判決を下した。

3  これに対し、被告らは、被告春夫が太田に対し御用聞きを奨励したことを否認し、被告春夫においても、御用聞きのように蔵置所が独自に注文を顧客から取ることは、税務署からやってはならないと何度も指導されていたから、被告春夫がその旨加盟者にも指導していたこと、本件契約書の「営業所独自で注文した商品」とは、酒類以外の商品を意味しており、酒類には適用されないと供述ないし陳述する。そして、クィニーシステムの他の加盟者や被告会社の従業員の中には、被告春夫が、営業所独自で注文することを固く禁じていたと供述する者もいる上、《証拠省略》によれば、クィニーシステムの納品書及び受領書・売上伝票には、酒以外の注文は原告方電話番号に注文するよう指示する旨の記載があることが認められる。

しかし、被告会社において、太田に対するクィニーシステムの研修において御用聞きの研修を実施したことは被告らも認めるところであるし、《証拠省略》によれば、本件契約書第七条3(3)の「営業所独自で注文した商品の売上の〇・八%」という記載は、酒類以外の商品に限定した記載となっていないし、その他の条項を検討してもそのように解釈することができないこと、平成五年二月二二日に被告春夫が太田に対し、白鷹という日本酒を引き合いに出しつつ、本件契約書第七条3(3)の「共通取扱い商品」及び「それ以外の商品」の売上に占める割合や原告が支払うべき歩合について説明した後、「営業所独自で注文した商品」を御用聞きとして説明しており、「営業所独自で注文した商品」とは酒類以外の商品を意味しており酒類は含まれないとの説明を全く行っていないこと、太田が、同年四月二八日、被告春夫に対し、御用聞きの可否について問い合わせた際、被告春夫は、前に説明したとおりと繰り返して返答するだけであり、酒類について御用聞きは禁じられている旨を明確に述べていないことが認められる。また、《証拠省略》によれば、クィニーシステムが「免許がないのに酒が売れる」という宣伝文句を用いて加盟店を募集していること、被告会社が原告に対し配付した商品コード表には、酒類の商品コードも記載されており、被告会社とクィニーシステムの営業所を繋ぐコンピューターシステムによって、酒類について営業所での受注分を入力することが可能であったこと、そして、売上伝票等においては、営業所が直接受注した場合と被告会社が受注した場合には峻別した記載が行われることになっていたこと、クィニーシステムの配達員に対するマニュアル中には、配達員は、商品の配達の際、「何かお持ちするものはございませんか。」と必ず声を掛けること、そして、顧客の注文があった場合には、その氏名、商品名、数量、納品日時をメモすることの記載があるが、右マニュアルの記載が酒類以外の商品又は酒類販売免許を有している支店の配達員に限定する旨の定めがないことが認められる。さらに、《証拠省略》によれば、平成四年四月から一二月末まで被告会社の従業員であった斉藤栄一は、本件契約書第七条3(3)の「営業所独自で注文した商品」について営業所が直接注文を受けた商品であると供述していること、クィニーシステムの加盟者は、いずれも商品を配達した顧客から酒類の注文があった場合、配達員がこれを受けて、加盟店が被告会社に対しコンピューターシステムにより右注文を入力していたこと、被告会社は、右注文入力を容認していたことが認められる。

右の各事実にかんがみると、被告春夫の前記供述及び陳述並びに乙一五、一八、二三、二四の同被告が営業所独自の注文を固く禁じていたとの供述は採用できないし、甲一九の1、2、二〇の1、2、二一の記載も前記認定を覆すものではなく、被告らの右主張は、採用できない。

4  また、被告らは、原告がクィニーシステムの営業を停止したのは、専ら、被告会社が原告の希望に満たない数の販売地域しか割り当てなかったこと及び平成五年四月二三日に原告の担当地域から被告会社にフリーダイアルが繋がらないという事故が発生した際、被告春夫が、NTTに対して損害賠償を請求した原告をたしなめるなどして、原告の期待どおりに行動しなかったことに基づくものであり、クィニーシステムの違法性を調査し、その違法性を確信したからではないと主張する。

そして、被告春夫は、平成五年四月二四日に太田からクィニーシステムの営業をやめる旨の電話があったと供述する。しかし、《証拠省略》によれば、被告会社は、右同日に、原告に対し、税務署の立入り調査が行われた旨の文書を送信していること(被告春夫は、被告会社の従業員が原告に対し誤って送信したと供述するが、採用できない。)、太田と被告春夫の同月二八日の会話には、原告が既に同月二四日にクィニーシステムの営業をやめたことを窺わせる内容がまったく見られないこと、被告会社は、同月二八日まで原告に対する注文を受け付け、原告に対し顧客への注文を指示していることが認められるのであり、右事実によれば、被告春夫の前記供述は採用できない。

ところで、《証拠省略》によれば、平成五年三月一一日の本件契約締結時において、原告は、横浜市の市内局番が記載されているNTTの「支店・営業所のご案内」を示し、これに原告が希望する販売地域を記載して、右地域を販売地域とするよう被告春夫に求めたのに対し、被告春夫は、本件契約書の第三条の販売地域の部分をその場では記載せず、同年四月二二日に原告から本件契約書を送付するよう求められた際、横浜の一部指定地域の五万世帯を上限として原告に割り当てる旨を本件契約書に記載し、原告に送付したことから、太田はこれを不満に思っていたこと、同月二三日に、NTTの配線ミスにより、原告の販売地域の顧客から被告会社にフリーダイアルが繋がらないという事故が生じ、太田は、右事故によって生じた損害の賠償をNTTに対して求めていたが、被告春夫が、太田に対して、右請求をするのは不当であること及び同人を信頼するのが困難である旨述べたことから、太田と被告春夫との間に対立が生じていたこと、原告がクィニーシステムの営業を停止する平成五年四月二八日、右営業の停止を被告会社に対して通告する前に、太田は、被告春夫に電話をしているが、その内容は、まず第一に本件契約書の販売地域欄に原告の要求しただけの販売地域が書かれていないことや、被告会社が空き瓶を回収しないことについて不満を述べ、次に、御用聞きを行うことが酒税法に違反しないかどうかの確認を求めているものとなっていることが認められる。右事実によれば、原告がクィニーシステムの営業を停止した理由に、被告会社が原告に対し原告の希望に満たない数の販売地域しか割り当てなかったことや、NTTに事故が発生した際に、被告春夫が原告の期待どおりに行動しなかったことに不満を持った点が挙げられることは否定できないと考えられる。

しかしながら、原告は、クィニーシステムを開業するに当たり、後記四認定のとおり、一〇〇〇万円を超える資本を投下しており、太田が被告春夫に対し不満を持ったという理由だけで、原告が、開業して一週間後に、クィニーシステムの営業を停止するとはにわかに考え難いところであるし、《証拠省略》によれば、原告から被告会社に対するクィニーシステムの営業を停止する旨の通告は、クィニーシステムが酒税法及び薬事法に違反することを理由としたものであったことが認められる。そして、前記2(三)のとおり、太田は、本件契約を締結するに当たって、税務署にクィニーシステムの適法性を問い合わせるなど慎重な対応をしていたこと、原告は、コンビニエンスストアー経営を主たる業務としており、その代表者である太田は、違法な営業活動を行うことによる右コンビニエンスストアーに対する信頼低下等の不利益を当然憂慮するべき立場にあったことを考えると、太田が、平成五年四月二四日に被告会社から営業所に対し税務署員の立入り調査があった旨の業務連絡を受けて、クィニーシステムの適法性に疑いを持って、再度税務署に問い合わせ、自ら文献を調査するなどして、同システムが違法ではないかとの認識を持つに至り、違法な営業活動をやめ、違法営業によるコンビニエンスストアーへの影響を避けるためにクィニーシステムの営業停止を決断したことはごく自然な対応であったと考えられる。

以上の事実にかんがみると、原告がクィニーシステムの営業を停止したのは、太田が被告会社の対応に不満を持った点による影響があるとしても、クィニーシステムの適法性に重大な疑義が生じたことが中心的な理由であると認められる。

三  以上の事実経過を前提にして、被告らが損害賠償責任を負うかについて検討する。

1  被告会社及び被告春夫の責任

(一)(1)  前記二2(六)に認定した事実及び《証拠省略》によれば、原告が営業所として被告会社と締結した本件契約に基づくクィニーシステムによる酒類の基本的な販売形態及び営業所の営業形態は、①営業所の責任者が被告会社との間に商品販売業務契約を締結して、営業所が被告会社に対し加盟料を支払う、②営業所は、自らの判断で在庫を管理し、被告会社が取り扱っている酒類の中から選定して被告会社に注文し、仕入れ代金相当額(クィニーシステム設立当初は、これに配達料を加えた額)を保証金として前払いし、被告会社から依頼を受けた酒類問屋から営業所に直接酒類が納入される、③顧客は、フリーダイアルによって被告会社に酒類を注文し、営業所がオンラインにより被告会社のコンピューターにアクセスすると、顧客の注文内容が伝票として端末機から出力されるので、営業所は、その伝票に従って、保管してある酒類を顧客に配達する、④営業所は、酒類の配達時に顧客から販売代金を受領して保管し、営業所の諸経費を支払い、さらに、一箇月に一度被告会社に対し固定ロイヤリティ及び商品の種類及び受注形態に応じた変動ロイヤリティを支払い、残額が営業所の利益になり、営業所はこれを雑収入として計上する、⑤営業所は、自己の責任で営業所施設、配達員、備品等を整備し、広告宣伝を行い、これに必要な費用は営業所が負担するというものであった。

(2) クィニーシステムによる右販売形態を見ると、顧客がフリーダイアルによる電話注文により被告会社に直接売買の申込みをして、被告会社が右申込みを承諾することにより酒類の売買契約を成立させるものであるから、営業所は、被告会社の指示に従って、被告会社に代わって酒類の配達をする者にすぎないし、営業所が被告会社に酒類を注文する際に支払うのは保証金であって仕入れ代金ではないから、営業所は、被告会社のために酒類を保管しているにすぎず、また、営業所が顧客から受領する販売代金も被告会社のものであって、営業所が右金額から被告会社に対するロイヤリティを支払った後の利益は、販売利益ではなく、酒類の配達を行うことによる雑収入であると見られないでもない。

しかしながら、右の販売形態及び営業形態においても、営業所が自己の判断と責任で在庫を管理し、被告会社に対し酒類の注文を行っており、顧客から被告会社を経由して注文が行われた酒類を在庫していない場合には、営業所の責任で顧客に注文の酒類を配達できないことになること、営業所が被告会社に酒類の注文の際支払う保証金は、仕入れ代金相当額であるから、実質的に営業所が酒類を代金を支払って仕入れていると見る余地もあること、営業所が顧客から回収した販売代金についても、すべて一旦被告会社に支払い、そこから営業所が配達料相当額の支払を受けるのではなく、営業所が保管し、その責任で営業所の経費や被告会社へのロイヤリティの支払を行うのであるから、営業所の利益を雑収入として計上することになっているにもかかわらず、実質的に見れば、営業所が自己の責任で顧客から酒類の販売代金を回収していると見られること、営業所は、自己の責任と費用で広告宣伝も行うことが認められるのであり、右事実にかんがみると、営業所を単なる配達を行う者と見るのは皮相的、形式的な見方であって、実質的には営業所は酒類の販売の代理業と見られないわけではない。

(3) さらに、前記二2(五)、(六)(6)、(七)、3に認定した事実及び《証拠省略》によれば、クィニーシステムによる酒類の実際の販売形態及び営業所の営業形態について、次の事実が認められる。

まず、仕入れに関しては、当初、被告会社に保証金を支払い、被告会社の依頼した問屋から酒類が送られてきたが、その後、被告会社を通すことなく、右問屋に代金を支払い、問屋から直接酒類が送付されるという手続に変更された営業所や、当初から一部の酒類を被告会社を通すことなく、直接問屋から仕入れている営業所も存在していたし、さらには、顧客から被告会社を経由して注文が行われた酒類を営業所において在庫していない場合には、営業所がディスカウントショップなどから直接購入して顧客の注文に応じることがあったり、顧客と交渉して在庫のある銘柄の酒類に注文を変更してもらうなどしていたことが認められる。

また、被告会社から営業所に送られた酒類が破損した場合などには、営業所がその損失を負担していたし、営業所がクィニーシステムによる営業をやめるときには、営業所に保管していた酒類の在庫を被告会社が引き取らなかったことも認められる。

注文に関しては、被告会社と営業所との間に締結された契約書には、営業所が直接注文を受けた場合に被告会社に支払うロイヤリティを〇・八パーセントとして、その他の場合と異なり低く定めており、これは酒類を除外した定めではなかったこと、営業所においては、配達時に顧客から追加注文を受けたり、営業所に電話で直接注文があったり、顧客が直接営業所に来店して注文することがあり、営業所としては、右注文を受けて、被告会社にコンピューターを通じて入力して注文し、その場合にはコンピューターによって出力される伝票の番号が、顧客から被告会社に直接注文があって、営業所に顧客の注文が連絡されて出力される伝票の番号と異なっており、注文の形態により区分けができる仕組みになっていたこと、被告会社及び被告春夫においては、営業所が右のとおり顧客から直接注文を受けることを許容していたし、原告に対しては、御用聞きを行って顧客から直接注文を受けることを奨励していたことが認められる。

営業所が顧客から回収した販売代金については、被告会社名義の預金口座を設けて保管していた営業所も存在したが、自己名義の預金口座に保管している営業所や自己の他の営業による売上金と区別することなく一緒に保管している営業所も存在し、右のような保管形態如何にかかわらず、営業所は、顧客から回収した販売代金を自己の責任で、クィニーシステムによる営業所の経費や被告会社に対するロイヤリティの支払に使用し、さらには、営業所のクィニーシステム以外の営業のために使用したりしており、右販売代金が被告会社の物であり、営業所が単に保管をしているという実質も形態もなかったことが認められる。

以上に認定したクィニーシステムによる酒類の実際の販売形態及び営業所の営業形態をかんがみると、営業所を単なる配達を行う者と見るのは困難であり、営業所は酒類の販売の代理業を行っているとの疑いは高いといわなければならない。

(4) そうすると、クィニーシステムによる酒類の販売は、酒類販売免許を持たない営業所をして酒類の販売代理業をさせるもので、酒税法九条に違反する取引形態である疑いは高いということになる。

事実、前記2(一三)のとおり、関東信越国税局長は、被告会社に対し、平成五年五月一九日、酒税法九条一項違反の犯則嫌疑に基づき、査察及び捜索差押えを実施し、同年一〇月一四日、宇都宮地方検察庁検察官に対し、被告会社を酒税法違反で告発し、同庁検察官は、平成六年八月二四日、被告会社及び被告春夫並びに営業所を経営していた者を宇都宮地方裁判所に起訴し、同裁判所は、平成一〇年一〇月一五日、被告会社らのクィニーシステムによる酒税法違反被告事件につき、被告会社に対し、罰金二〇〇万円、被告春夫に対し、懲役八月、執行猶予三年の有罪判決を下している。

(5) また、《証拠省略》によれば、営業所は、その倉庫において薬品を保管していることが認められるところ、薬局開設者又は医薬品の販売業の許可を受けることなく、薬品を保管していることは薬事法二四条に違反する疑いがある。

(二)(1)  前記(一)のとおり、クィニーシステムによる酒類及び薬品の販売は、酒税法及び薬事法の行政法規のいずれにも違反する疑いがあったのであるが、一方、被告らが主張するとおり、今までになかった業務形態を模索し、新しい発想で営業を行うベンチャー企業が我が国の経済を活性化し、行政法規に違反することなく有益な事業として成立する余地もあるのであるから、結果的に右営業が行政法規に違反することになったとしても、それ自体をもって不法行為法上違法であるということはできない。

しかしながら、自ら単独で右事業を行うのではなく、右事業における営業所となるべき第三者を勧誘し、これらの者を右事業に組み入れて事業を行おうとする者は、第三者に対し、右事業の法適合性に関する問題点を十分説明し、第三者においてその事業が行政法規に違反する可能性やその問題点を認識させた上で、新しい事業に参加するか否かを自己責任において判断させる義務があるというべきであり、被告会社の実質的経営者であり、原告と本件契約を締結するに当たって交渉を行った被告春夫は、原告に対し、本件契約を締結する際に、本件事業の将来性を説明するばかりでなく、クィニーシステムによる酒類及び薬品の販売が酒税法及び薬事法に適合するか否かについての問題点及び危険性を説明し、原告に右各法規に違反する可能性を認識させた上で、右事業に参加させる義務があったというべきである。

しかるに、《証拠省略》によれば、被告春夫は、原告に対し、クィニーシステムによる営業が行政法規に違反する可能性について何ら説明を行うことなく、かえって、酒税法及び薬事法に違反することはないことを強調して、クィニーシステムによる営業の参加を勧誘したことが認められるから、被告春夫には、右義務を怠った過失があるといわなければならない(なお、《証拠省略》によれば、宇都宮地方裁判所は、被告会社及び被告春夫が故意犯である酒税法違反の罪を犯したと認定したことが認められるが、同裁判所に提出された証拠のすべてが本件において証拠として提出されてはおらず、本件全証拠によるも、被告春夫において、クィニーシステムによる営業が酒税法及び薬事法に違反するとの認識を有していたとの事実を認めることはできないし、まして、被告らが、クィニーシステムによる営業が、酒税法九条及び薬事法二四条に違反すると知っていながら、共謀の上、原告をして、違法な営業であるクィニーシステムに引き込んで右営業をさせたと認めるには足りない。)。

(2) これに対して、被告らは、被告会社の前身である有限会社A野松太郎商店がクィニーシステムを始めた昭和六一年四月三日ころ、関東信越国税局間税部酒税課の調査を受け、それ以降、一〇年以上税務当局の指導を受けつつ、クィニーシステムを展開してきたものであるから、仮に、クィニーシステムが違法であるとしても、被告春夫には、クィニーシステムが違法であること又はその疑いがあることについては、認識することができず、過失がないと主張する。

しかし、《証拠省略》によれば、右税務当局の指導内容は、御用聞きの禁止を含むものであることが認められるところ、少なくとも被告春夫には、営業所において御用聞きを行うことが酒税法に違反する疑いがあることを十分認識していたというべきであるし、営業所におけるクィニーシステムによる実際の営業形態は、前記(一)(3)のとおりであり、右営業形態を認識していた被告春夫においては、これが酒税法に違反する疑いがあることは十分認識していたと認められ、被告らの主張は理由がない。

(3) また、被告らは、被告春夫が、太田に対し、クィニーシステムの説明及び研修に際し、税務署から適法であると説明を受けたマニュアルにおける運営方法に存在しない御用聞きを奨励したことにより、原告は、クィニーシステムの適法性につき重大な疑義が生じたはずであり、その点を自らの責任で調査、検討しなかった原告に対し、被告春夫が説明義務を負うものではないと主張する。

しかし、前記二2(三)認定のとおり、マニュアルどおりならば酒税法違反の点はないとの税務署の回答を受けていた太田において、被告春夫からマニュアルにはない御用聞きを奨励されたことによりクィニーシステムによる営業の適法性について疑問を持ち、改めて税務署等にその適法性を確認しなかった太田に落ち度があるとしても、前記二2(七)認定のとおり、被告春夫は、本件契約締結時に太田に対し御用聞きを奨励するに際し、一般の酒屋が御用聞きを行っても問題ないことを引き合いに出して、御用聞きが酒税法違反にならない旨説明しているのであるから、被告春夫において、クィニーシステムによる営業の問題点について説明する義務を免れるわけではない。よって、被告らの主張は理由がない。

(4) 以上のとおり、被告春夫には、原告との間で本件契約を締結するに際し、原告代表者である太田に対し、クィニーシステムに酒税法及び薬事法違反の疑いがあることを説明する義務を怠った過失があるから、不法行為に基づき、右過失により原告に生じた損害を賠償する義務がある。

そして、被告春夫が被告会社の取締役である以上、被告会社は、有限会社法三二条、商法七八条二項、民法四四条一項に基づき、被告春夫と連帯して、原告に対し、損害賠償責任を負う。

2  被告太郎の責任について

前記一のとおり、被告太郎が被告会社の代表取締役であるところ、《証拠省略》によれば、被告太郎が、被告春夫のクィニーシステム勧誘活動に関して、被告春夫を監視監督していなかったと認められるから、被告太郎には、被告会社の代表取締役として、被告春夫を監視監督する義務を完全に怠っていた重過失があるというべきであり、有限会社法三四条の三、商法二六六条の三第一項に基づき、被告会社及び被告春夫と連帯して、原告に対し、損害賠償責任を負うべきである。

四  損害について

1  加盟料(請求の原因4(一)(1))

原告が、本件契約締結に際し、被告会社に対して、クィニーシステムの加盟料として、二五〇万円を支払ったことは、当事者間に争いがない。

この加盟料は、被告春夫が、太田に対し、クィニーシステムに酒税法及び薬事法違反の疑いがあることを説明しなかったことによって、支出した金員にほかならないから、被告らの賠償すべき損害に該当するというべきである。

2(一)  クィニーシステムコンピューター代金(同4(一)(2))

原告が、本件契約締結に際し、被告会社に対し、クィニーシステムコンピューター一式の代金として、一九五万七〇〇〇円を支払った事実を、被告らは明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

そして、《証拠省略》によれば、右システムコンピューターのハードウエアであるオフィスコンピューターは、本件契約締結の数年前から生産、販売をしていなかった旧式のものであり、他に転用することができないことが認められる。

したがって、右システムコンピューター代金は、被告春夫が、太田に対し、クィニーシステムに酒税法及び薬事法違反の疑いがあることを説明しなかったことにより、原告が同システムに加入したために生じた出費であるといえるから、被告らの賠償すべき損害に該当するというべきである。

(二)  被告会社に支払った商品仕入代金及び消耗品仕入代金(同4(一)(3)及び(4))

原告が、被告会社に対し、クィニーシステムで販売すべき商品の仕入代金及び事務消耗品の仕入代金として、合計二七三万六三一五円を支払った事実を、被告らは明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

そして、《証拠省略》によれば、右商品はすべて酒類であること、酒類は、半年経過すると商品としての価値が失われること、原告は酒類販売の免許を有しないことが認められ、これらの各事実によれば、クィニーシステムを廃業した原告は、廃業後、右商品を売却することはできなかったと認められる。したがって、右商品仕入代金は、原告に生じた損害と認められる。

また、《証拠省略》によれば、原告が被告会社から購入した事務消耗品は、「クィニー」の名称が記載されたものと認められ、原告の他の業務に使用できるものではないと認められるから、かかる消耗品を購入した代金も、原告に生じた損害と認められる。

(三)  原告がアサヒコーポレーションに支払った代金(同4(二))

《証拠省略》によれば、原告が、クィニーヨコハマの名称で、アサヒコーポレーションに対し、輸入洋酒の売買(仕入)代金として、二〇万九九八二円を支払ったことが認められる。

そして、前記(二)のとおり、原告がクィニーシステムの営業を停止した後酒類を転売することができなかったことにかんがみると、右売買代金は、原告に生じた損害であると認められる。

(四)  倉庫設置費用(同4(三))

(1) 《証拠省略》によれば、原告は、本件契約締結に先立ち、駐車場用地として賃借していた土地(以下「本件土地」という。)の貸主である早川昭夫(以下「早川」という。)に対し、本件土地上にクィニーシステムの営業のために使用する倉庫を建築することを承諾するよう求め、その対価として、平成五年三月一一日、同人の普通預金口座に、金二〇万円を振り込み、振込み手数料三〇九円を支払ったこと、平成五年三月一七日、有限会社白木ハウス産商との間で、本件土地上に、代金一三三万九〇〇〇円で、倉庫を建設させるとの合意をし、同社の普通預金口座に、平成五年三月二二日に金三九万九二七九円(振込み手数料は同社負担)及び金一〇万円(振込み手数料六一八円)、同年四月一九日に金八三万八二七九円(振込み手数料六一八円)を右支払として振り込んだこと、右倉庫の電気設備工事費として、有限会社新生電気商会の当座預金口座に、平成五年四月一二日、一六万四四七一円(振込み手数料六一八円)を振り込んだこと、右倉庫の前面道路の工事代金として、有限会社大津石材商店の当座預金口座に、一九万九五八八円(振込み手数料三〇九円)を支払ったことが認められる。

そして、《証拠省略》によれば、原告が被告会社と本件契約を締結してクィニーシステムを営業するためには、酒類及び薬品を保管するための右倉庫の建設が必要不可欠であったと認められる。

したがって、右金員の合計一九〇万四〇八九円は、原告に生じた損害であると認められる。

(2) 原告は、右金額に加えて、早川に対して平成五年三月二二日及び同年四月二〇日に支払った本件土地の賃料合計四四万円(振込み手数料合計六一八円)も被告らにより賠償されるべき損害であると主張する。

しかし、甲二二に添付された契約書によれば、原告は、早川との間で、平成四年六月三〇日、本件土地を駐車場使用目的として、同年七月一日から平成七年六月三〇日まで賃借する旨合意していたことが認められる。したがって、右賃料の支払は、右賃貸借契約に基づくものであり、被告春夫の説明義務違反行為により原告に生じた損害ということはできない。

(3) また、原告は、横浜舗装株式会社に対して支払った一〇〇万円を、倉庫用地舗装費用として被告らが賠償すべき損害であると主張する。そして、甲一一において、太田は、右代金は、平成五年三月九日に行われた倉庫用地舗装工事の費用であると陳述する。

しかし、《証拠省略》によれば、右代金は、駐車場舗装費用工事一式の代金として、平成五年四月二八日ころ支払われたものであること、本件土地は、右倉庫が建設される以前は駐車場として使用されていたこと、本件土地のうち倉庫が建設されていない一八九平方メートルの部分は、倉庫建設後も駐車場として使用されていたことが認められる。以上の各事実によれば、右工事費用は、本件土地の駐車場部分に対する舗装費用であり、倉庫の建設に必要な費用とは認め難い。したがって、右支払が損害に当たるという原告の主張は理由がない。

(五)  軽車両及びフォークリフト購入代金(同4(四))

(1) 《証拠省略》によれば、原告は、平成五年四月二〇日、有限会社塚本商店に対し、フォークリフトの購入代金として、金四四万九五八八円を支払い、その振込み手数料として、三〇九円を支払ったことが認められる。また、弁論の全趣旨によれば、原告は、クィニーシステムの営業を停止した後、右フォークリフトを金三五万円で売却したことが認められる。

そして、《証拠省略》によれば、クィニーシステムを営業するに際し、加盟者は、フォークリフトを使用することが予定されていると認められる。

以上の各事実から、原告が右フォークリフトを購入した代金及び振込み手数料からそれを売却して入手した代金の差額九万九八九七円は、原告に生じた損害であると認められる。

(2) また、《証拠省略》によれば、クィニーシステムの営業には、商品の配達に自動車の使用が予定されていること、原告は、平成五年三月二二日ころ、株式会社スバルオート横浜に対し、配達に使う車両の見積を依頼し、後日すぐ注文し、同社に対し、車両代金等の支払代金として、金九二万四八八〇円支払ったことが認められる。以上の各事実に、一般的に、コンビニエンスストアーにおいては、軽車両を営業に使用していないことを併せ考えると、原告の右軽車両購入代金は、原告に生じた損害であると認められる。

(六)  人件費(同4(五)(1))

(1) 《証拠省略》によれば、原告が、クィニーシステムの営業を開始するに当たり、倉田鏡美(以下「倉田」という。)、山岸幹岳(以下「山岸」という。)、鈴木茂子(以下「鈴木」という。)、本多勝(以下「本多」という。)、梶好子(以下「梶」という。)を雇用し、平成五年四月二八日、鈴木、本多、梶に対し、給与及び退職金として、各自に対し、五万円を支払い、同年五月六日、倉田に対し、給与及び退職金として、五万円を現金書留で郵送し、郵便料五〇二円を支払ったことが認められる。

これらの人件費及び郵便料の合計二〇万〇五〇二円は、被告春夫が太田に対し、クィニーシステムに酒税法及び薬事法違反の疑いがあることを説明していれば、支出されなかった金員であることは明らかであるから、被告らによって賠償されるべき損害である。

(2) 原告は、山岸に対しても、給与及び退職金として、五万円を支払ったと主張し、甲九の26にも同様の記載がある。

しかし、《証拠省略》によれば、右金員に関する山岸の領収証は存在しないことが認められる。甲九の27には、「一名分取りもれあり」との記載もあるが、金銭に細かいことを自認する太田が、現金を手渡したにもかかわらず、領収証を取り忘れるとは考え難いから、甲九の26の右記載は採用できず、他に山岸に対する給与及び退職金の支払を認めるに足りる証拠はない。

(3) また、原告は、太田に対して支払った平成五年三月分及び四月分の取締役報酬の合計一一〇万円を、被告らが賠償すべき損害であると主張する。

しかし、取締役報酬は、原告と太田との間の取締役任用(委任)契約に基づき、原告から太田に対して支払われるものであり、被告春夫が、原告に対してクィニーシステムに酒税法及び薬事法違反の疑いがあることを説明しなかったことから生じた支出ということはできない。原告は、太田がクィニーシステムの営業を開始するための準備行為に専念しており、原告の代表取締役としての活動をしなかったと主張するが、太田が原告の代表取締役であることにかんがみると、太田がクィニーシステムの開業準備に専念し、コンビニエンスストアーの経営に何ら関与していなかったとは到底考えられず、右主張は採用できない。

(七)  接待交際費(同4(五)(2))

原告は、クィニーシステムの従業員等に対する接待交際費三万八三三七円の支出も、被告らが賠償すべき損害に当たると主張する。

しかし、右接待交際費は、原告が右従業員等との人的関係に基づいて支出した金員であり、被告春夫が太田に対してクィニーシステムが酒税法及び薬事法違反の疑いがある旨説明しなかったこととの間に相当因果関係のある支出とは言い難い。

したがって、右支出を被告が賠償すべき損害に加えることはできない。

(八)  広告宣伝費(同4(五)(3))

《証拠省略》によれば、原告は、平成五年三月九日、朝日販売開発株式会社に対し、クィニーシステム開業のための求人広告掲載費用として、四万六三五〇円を支払い、同年四月二一日、株式会社読売インフォメーションサービスに対し、同月二三日にクィニーシステムの折込広告を入れる代金として、一一万四三三〇円支払ったことが認められる。

右各広告代金の支払は、クィニーシステムの商品配達員の募集、顧客に対する宣伝のために行われたものであり、クィニーシステムを営業するために必要な支出であったということができるから、右各支出の合計一六万〇六八〇円は、被告春夫が太田に対し、クィニーシステムに酒税法及び薬事法違反の疑いがあることを説明しなかったことにより、原告に生じた損害であると認められる。

(九)  燃料費(同4(五)(4))

《証拠省略》によれば、原告は、平成五年四月二一日、ガソリン代金として、三二一四円を支払ったことが認められる。これに、前記二7のとおり、同日、原告がクィニーシステムの営業を開始したことを併せ考えると、右ガソリンは、クィニーシステムの営業における商品の配達に使用する自動車のために用いられたものと推認される。したがって、右ガソリン代金は、原告に生じた損害であると認められる。

(一〇)  通信費(同4(五)(5))

《証拠省略》によれば、原告は、平成五年五月六日、電話番号〇四五―六二四―二七七五の同年四月分の電話料金として、一万四九〇八円、電話番号〇四五―六二四―二七七六の同月分の電話料金として、二四四五円を支払ったことが認められる。そして、《証拠省略》によれば、原告がクィニーシステムの営業に際して使用していた電話番号が、〇四五―六二四―二七七五であったこと、原告は、クィニーシステムの営業において、電話の外にファクシミリも使用していたこと、本件契約前における原告の使用電話番号の中に、〇四五―六二四―二七七六というものは存在しなかったことが認められる。

以上の各事実からすると、右二本の電話回線は、原告がクィニーシステムを営業するに当たって架設し、使用したものと認められる。したがって、右電話代金合計一万七三五三円は、原告に生じた損害であると認められる。

(一一)  消耗品費(同4(五)(6))

(1) 《証拠省略》によれば、原告は、平成五年四月一六日、住宅地図を購入し、同月一六日及び二〇日、購入代金及び振込み手数料として、合計五万五七九四円支払ったこと、同月一七日、二一日、二三日、二四日、地図のコピー代として、合計一万七九三六円を支払ったこと、同月一五日、クィニー営業所と入った名刺の代金として、三〇〇〇円を支払ったこと、同月一二日、机、椅子の購入代金として合計一万八四〇〇円を支払い、同月一五日、中量棚、レターケース、台車の購入代金として、合計七万五四二〇円を支払ったこと、同月一五日、ファクシミリ購入代金として、四万〇九九四円を支払い、同月二二日、留守番電話付きファクシミリ購入代金として、八万二四〇〇円を支払ったことが認められる。

そして、前記二1のとおり、クィニーシステムが酒類等の宅配を行うものであることからすると、配達のために住宅地図は必要不可欠であると認められ、また、甲一の月次経費の項目にファクシミリ経費の記載があることからすれば、同システムはファクシミリの使用を予定していることが認められる。その一方、右各物品は、コンビニエンスストアーの経営には必ずしも必要なものとはいえないから、原告が右各物品を他に転用することはできない。

以上の各事実にかんがみると、右支出の合計二九万三九四四円は、原告がクィニーシステムを開始するに当たって、必要な経費であると認められるから、被告春夫が太田に対し、クィニーシステムに酒税法及び薬事法違反の疑いがあることを説明しなかったことにより、原告に生じた損害であると認められる。

(2) 原告は、右の外にも、フロッピーディスク、ホッチキス、前掛け、蛇口、ボルトの各購入代金も、損害に当たると主張し、甲九の34にも右購入代金をクィニーシステム開業にかかる消耗品費として計上している。

しかし、右各物品をクィニーシステムの営業に使用したと認めるに足りる客観的な証拠はなく、前記一のとおり、原告がコンビニエンスストアーの経営を業とする株式会社であることも併せ考えると、右各物品をクィニーシステムの営業以外に使用するために購入した可能性を否定することはできないから、右各購入代金を被告らの賠償すべき損害に加えることはできない。

(一二)  以上の各損害項目に対し、被告らは、加盟料以外の支払は、売買等の契約に基づく金員の支払であり、かつ、原告は、すべて等価性のある物品、労務等を受領しているから、原告に損害は発生していないと主張する。

しかし、原告が、被告春夫の太田に対するクィニーシステムの違法性の疑いを説明をしなかった行為により、かかる説明があればしなかったであろう金銭を現実に支出し、原告がそれによって取得した物品を他に転用することが不可能であると認められる以上、右支出と被告春夫の不法行為との間に相当因果関係があり、その支出を損害として賠償すべき義務があるというべきである。したがって、被告らの主張は、理由がない。

3  損益相殺

被告らの前記2(一二)の主張は、原告の利益を控除すべきという損益相殺の主張をも含む趣旨であると解される。

そこで検討するに、《証拠省略》によれば、原告は、クィニーシステムの営業により、平成五年四月二四日には四八七五円及び一万〇七八〇円、同月二八日には九六〇〇円及び九二二〇円の売上があったことが認められる。

右売上合計三万四七七五円は、原告がクィニーシステムの営業により上げた売上であり、損害額から控除されるべきである。

原告は、前記二2(一二)のとおり、平成五年四月二八日午後、クィニーシステムの営業を停止したが、営業停止後も既に注文を受けた商品については配達をしないと信用を損なうことになり、コンビニエンスストアーを経営する原告がかかる事態を容認するとは考え難いこと、甲二一の二通の納品書はいずれも控であり、正本が提出されていないことからすると、同日午後一時より前に注文を受け付け、同日中に配達をすべき商品については、原告は配達をしたものと認められる。

4  以上により、被告春夫が太田に対し、クィニーシステムに酒税法違反の疑いがあることを説明しなかったことにより、原告に生じた損害の合計は、一〇九七万三〇八一円となる。

5  過失相殺(被告らの抗弁)

前記二2(三)、(五)、(七)、(八)のとおり、太田は、そもそもクィニーシステムによる営業について酒税法に違反しないか疑問を持っており、平成五年一月一三日に保土ヶ谷税務署に対しマニュアルを見せて相談したところ、クィニーシステムの適法性につき、マニュアルどおりの運営なら酒税法違反の点はない旨の説明を受け、その後、太田は、同年二月二二日及び同年三月一一日の二度にわたって、被告春夫からマニュアルでは予定されていない御用聞きを奨励されるとともに、同年四月一日から同月三日までの研修の際には、被告会社の指示により、御用聞きを実際に行ったのであるから、原告としては、右各時点において、クィニーシステムによる営業がマニュアルと異なる内容であることを認識した以上、その適法性につき疑問をもって、再度クィニーシステムによる営業の適法性について、真実の営業形態を明らかにして税務署に確かめるなり、自ら調査を行うべきであったといわなければならない。原告は、コンビニエンスストアーを経営している株式会社であって、新しい事業に参加しようとするときに自らの責任でその事業についての法適合性を調査すべきことを要求したとしても、相当性を欠くものではない。

しかるに、原告及び太田は、被告春夫の説明を軽信して、同システムの適法性を特に調査することなく、本件契約を締結するとともに、クィニーシステムの営業を準備することにより、前記の損害を被ったものであるから、この原告の過失を損害賠償額の算定に当たってしんしゃくすべきであり、右各事実に加え、原告が被告会社の営業所としての立場に立つものであるが、原告と被告会社は、会社の規模にさほど違いはないことや、原告が日経流通新聞の広告を見て積極的に被告の営業所となることを申し込んだ事情などからして、原告と被告会社とは対等の立場にあったものと認められるから、五割の過失相殺をするのが相当であると認められ、そうすると被告らが賠償すべき損害額は、五四八万六五四〇円となる。

原告は、被告らが故意に酒税法違反行為を行っていた以上、過失相殺をすべきではないと主張するが、前記三(二)(1)のとおり、本件全証拠によるも、被告らがクィニーシステムが酒税法九条及び薬事法二四条に違反すると知って、共謀の上、原告をしてクィニーシステムの営業をさせたという事実は認められないから、原告の右主張は理由がない。

また、原告は、本件のようなフランチャイズ契約においては、フランチャイズの主宰者と加盟者との間には、力関係、専門知識、経験のいずれにおいても、主宰者側が圧倒的に優位な立場に立って、契約を締結できるから、加害者と被害者の立場の互換性又は対等独立性を前提とする過失相殺を、本件において適用することは許されないと主張する。

しかし、前記のとおり、被告会社がフランチャイズの主宰者として、原告に対し、圧倒的に優位な立場に立っているとは認められず、むしろ、両者の事業規模等を考えると、原告と被告会社は対等の立場にあったものと認められるし、原告としても自らの選択により新しい事業を行おうとする以上、自らの調査により自らの利益を守るべきであり、自らの調査不足による損害に対して、原告が何ら責任を負わないということはできない。したがって、原告に対する過失相殺を否定することはできない。

6  弁護士費用(請求の原因4(六))

以上の諸事情にかんがみると、原告が支払うべき弁護士費用のうち、五〇万円については、原告の損害額に含めて、被告らに賠償させるのが相当である。

そうすると、被告らが賠償すべき損害額総額は、五九八万六五四〇円となる。

五  以上によれば、原告の本訴請求は金五九八万六五四〇円及びこれに対する不法行為の後であり、記録上本件訴状送達の日の翌日であることの明らかな平成五年六月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六四条本文、六一条、六五条一項本文を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 前田順司 裁判官 長屋文裕 成田晋司)

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